本棚を眺めていたら、『伊豆の踊子』(川端康成)と目が合いました。
高校のころに読んだ本です。
すっかり日に焼けて、茶色くなっています。
表紙だけではなく、本文の紙もです。
なにしろ買ってから30年たっています。
うっかり落っことしたりしたら、バラバラになりそうな気配です。
以前、これよりも前に買った『中野重治詩集』をバラバラに崩してしまった苦い経験があります。
なので、そおっと、本を開きます。
(うわ……。)
中身を見て、思わず苦笑してしまいます。
線を引きながら読んでいるのですけれど、本文のほとんど全部に線が引いてあるのです。
線を引いてないところを見つけるほうが難しい。
高校生らしい勢いは感じますが、あまり実用的な線の引き方ではありませんね。
傍線のほかに、鉛筆で「正」の字が書いてあります。
読んだ回数です。
どうやら、6回も読んだことになっています。
6回も読んだのに、『伊豆の踊子』がどんなお話だったか、おぼろげにしか覚えていません。
うん、これは、きっと、血となり肉となったんだ。
だから、覚えてないんだ。
ね、そうだよね。
本に、そう、語りかけてみます。
そして、最後に、挨拶します。
(……ありがとう。)
壊してしまわないようにそっと、本棚に戻します。
*
あなたの本棚には、どんな思い出が眠っていますか。
(紫 麻乃)
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