20年ほど前、大学生の わたくしに、
タマネギの上手な みじん切りの方法を教えてくれたのは、
当時、大学院生だった金森修さんです。
パリの日本館時代のことです。
金森さんは、今は大学の先生です。
フランス科学認識論が専門です。
金森さんの著書に、『バシュラール』(講談社)があります。
フランスの「怪物」哲学者・バシュラールを紹介した本です。
10年前、出版されたときに、さっそく買って読みました。
その後、引っ越したときに、どこかに紛れてしまいました。
そのまま、迷子でした。
大きな本屋さんに行ったり、古本屋さんに行ったりすると、
必ずこの本を探してきました。
でも、なかなか見つかりません。
最近、石原千秋さんの『学生と読む『三四郎』』(新潮選書)を読んでいたら、
急にバシュラールの本が読みたくなってきました。
本棚の、『水と夢』(L'eau et les reves : essai sur l'imagination de la
matiere)と、
目が合いました。
フランス綴(と)じの本です。
雑誌の袋とじを想像してください。
フランス綴じの本は、ペーパーナイフで、袋とじの部分を切って読み進めます。
『水と夢』は、いちばん最後の袋とじのところを切らずに
ほうりだしたままになっています。
ふつうなら、ここまで読んだのだから、
最後の袋とじの部分をあけて、そこだけ読むところです。
でも、石原さんの『学生と読む『三四郎』』から、
『水と夢』を、頭から読み直す勇気をもらいました。
さっそく、お風呂に入りながら、読み始めます。
『水と夢』の世界と一緒にお風呂に浸っていると、
金森さんの書いた『バシュラール』に、
どうしても、もう一度、会いたくなってきます。
ネットの力は偉大です。
[ Amazon.co.jp ] で、検索すると、中古の本ですが、ずらずらと検出されます。
注文すると、中1日で届くのです。
あっけないくらいです。
探し回っているときには、
ネットで検索すればよい、という当たり前の発想が頭からすっかり脱落していました。
再び出会う時期に至っていなかったのです。
本当に必要になれば、単純明快な方法が、自然と見えてくるものなのですね。
届いた『バシュラール』のカバーを愛でます。
カバーを取り去ったあとの表紙も愛でます。
君に、やっと会えました。
(紫 麻乃) |