その47
 君に、やっと会えたね。


 

 20年ほど前、大学生の わたくしに、
 タマネギの上手な みじん切りの方法を教えてくれたのは、
 当時、大学院生だった金森修さんです。
 パリの日本館時代のことです。

 金森さんは、今は大学の先生です。
 フランス科学認識論が専門です。
 金森さんの著書に、『バシュラール』(講談社)があります。
 フランスの「怪物」哲学者・バシュラールを紹介した本です。
 10年前、出版されたときに、さっそく買って読みました。
 その後、引っ越したときに、どこかに紛れてしまいました。
 そのまま、迷子でした。

 大きな本屋さんに行ったり、古本屋さんに行ったりすると、
 必ずこの本を探してきました。
 でも、なかなか見つかりません。

 最近、石原千秋さんの『学生と読む『三四郎』』(新潮選書)を読んでいたら、
 急にバシュラールの本が読みたくなってきました。
 本棚の、『水と夢』(L'eau et les reves : essai sur l'imagination de la matiere)と、
 目が合いました。

 フランス綴(と)じの本です。
 雑誌の袋とじを想像してください。
 フランス綴じの本は、ペーパーナイフで、袋とじの部分を切って読み進めます。
 
 『水と夢』は、いちばん最後の袋とじのところを切らずに
 ほうりだしたままになっています。
 ふつうなら、ここまで読んだのだから、
 最後の袋とじの部分をあけて、そこだけ読むところです。
 でも、石原さんの『学生と読む『三四郎』』から、
 『水と夢』を、頭から読み直す勇気をもらいました。
 さっそく、お風呂に入りながら、読み始めます。

 『水と夢』の世界と一緒にお風呂に浸っていると、
 金森さんの書いた『バシュラール』に、
 どうしても、もう一度、会いたくなってきます。

 ネットの力は偉大です。
 [ Amazon.co.jp ] で、検索すると、中古の本ですが、ずらずらと検出されます。
 注文すると、中1日で届くのです。
 あっけないくらいです。

 探し回っているときには、
 ネットで検索すればよい、という当たり前の発想が頭からすっかり脱落していました。
 再び出会う時期に至っていなかったのです。

 本当に必要になれば、単純明快な方法が、自然と見えてくるものなのですね。

 届いた『バシュラール』のカバーを愛でます。
 カバーを取り去ったあとの表紙も愛でます。
 君に、やっと会えました。

 (紫 麻乃)

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