その45
 君に笑顔で、また会える日まで、待つよ。


 

 雨の降る日の地下鉄の駅で、君と目が合いました。
 思わず目と目が合ってしまいました。

 君は、黄色いコートを着て、
 地下鉄の駅の壁に寄りかかって立っています。
 もう、だいぶ前から、そこに立っている様子です。
 列車を何台かやり過ごしているに違いありません。

 問わず語りに、君は言います。

 「僕の相棒が迷子です」

 君は相棒と、はぐれてしまったんですね。

 「まったく、どこへ行っちゃたんだろう」

 君は、相棒のことを心配しています。

 「おっちょこちょい、なんだから。
  雨にぬれても、知らないよ」

 君は、相棒思いなんですね。

 それにしても、君の相棒は、どこに行ったんでしょう。
 念のため、わたくしは、
 君の代わりに、回りを見渡してみます。
 でも、君の相棒らしい人は見当たりません。

 君を、この壁に置いてけ堀にしたっきり、
 あわてて列車に乗って、そのまま行ってしまったのです。
 君を置いてけ堀にしたことすら、
 気づいていないのかもしれません。

 わたくしが乗る列車が来てしまいました。
 君に、(お役に立てないでごめんなさい)と挨拶して、
 急いで乗り込みます。

 走り出した列車の窓から、君にもう一度、
 目で挨拶を送ります。

 君の姿が、窓枠から流れ去ります。

    *

 車窓の外が地下鉄の暗いトンネルに変わった瞬間、
 君の相棒が君を探して、今の駅まで戻ってきた映像が、
 一瞬、見えた気がしました。

    *

 わたくしは、君にまた、笑顔で会える日のことを夢見ました。

 (紫 麻乃)

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